走馬灯予行演習

誰にも言えない君のそんなところが好きだったよ

恋の威を借る

 

何がダメだったのか、未だにちゃんとわかっていない。だから私はまだこんなことを考えて文章を書くのだろう。正月早々ZOZOTOWNのセールを隈なくチェックし、服と鞄に5万円使ってしまった。あと次のクーポンであと1万円分くらい買おうとして、今日買った服の中で次に彼に会う時に着たいものが一枚もないことに気づいてアプリを閉じた。たぶんこの服を着てこれから会うであろうくだらない男からのくだらない可愛いねにすでに勝手に虚しくなって、代わりに君のフォロー欄を漁っている。節約情報主婦アカウントなんか君に似合わないよ。

 


クリスマスの夜、彼のストーリーを見て息が止まるかと思った。心臓が跳ね上がる。あと1回で単位を落とすギリギリの課題を出し忘れていたことに気づいたような、そんな絶望的な気持ちが私の肩を押す。一緒にいた友達に悟られたくなくて、どうでもいい話をし続けた。ちょうど1ヶ月前、ちょうどその時一緒にいた友達と訪れたできたばかりの水族館の目玉の水槽の前に立つ女の姿は、私が世界一羨んで世界一なりたくなかった女によく似ている気がした。位置情報以外何もない簡素で質素な投稿が大嫌いな「賢者の贈り物」の夫婦を連想させて私の心を粗くする。あの女とはおおよそ真逆で、今夜はホテルまで借りてこの日のために買ってきたすぐに汚くなりそうな真新しいパジャマに身を包む私は彼の目には愚かに写っていたのだろうか。

 


私が彼をいつまでも求めるように、彼もまた私じゃない誰かのことをいつまでも求め続けていたのだろうか。足の遅い私が彼の前を走れることなんて一生なかったのだろうか。推測ばかりで悔しくなる。私はこの1年の彼のことを何も知らない。SNSもろくに更新しないから会いに行かないと彼の近況を知る術もないし、そして私が今更会いに行く理由もない。だから、そんな彼の久しぶりの投稿とその意味の重みは私1人を殺すには十分すぎた。

 


ねえなんで私と同じ場所で同じ構図であの子を撮ったの?確かにあれは水族館の目玉で、訪れた人はみんな撮るけど、どうしてクリスマスにあんな辺鄙なところに行ったのか教えてほしい。知ったところでどうしようもできないし、あの子が私になることはない。でも私はトドメの一言を心のどこかで待っている。「君のインスタ見て行こうかなと思った」って、もしもそう言われたら私はこの恋を終わらせることができると思う。

 

 

 

 


単刀直入に言うと、あの女とセックスしないでほしい。というか、あの女じゃなくてもしないでほしいしそれが無理ならやっぱりあの女とだけはしないでほしい。あの2人のセックスを想像する時、私は動く彼ではなく会話らしい会話もしたことがないあの女のことを想像している。恋というのは崇拝と嫉妬で、前者は彼に、後者は彼が好きになった私以外の女に向いているのだ。お願いだから私をこれ以上醜くさせないでほしい。君も私も綺麗なまま、過去だけを汚して前に進みたい。ただ、最後にわがままが叶うなら、私が他の男に抱かれる前に一度だけ私を抱いてほしい。最初も最後も貰えないから最初で最後にしておきたい。大丈夫、全部なかったフリして生きていけるから、私はそこまで愚かじゃないから、だからちょっとだけ私を覚えていてね。