走馬灯予行演習

誰にも言えない君のそんなところが好きだったよ

不整脈

 

 

深夜4時、夜と朝の1番深いところにあるこの時間に湧き出る感情や楽しかった思い出や彼の顔は全部幻だから、私はこのままこの深くて暗いところにそういうものを全部全部置いて太陽と一緒に明るいところへ上がっていかないといけないのだろう。君を好きになってから、こういう文章を書く時にすぐに愛だの恋だのを引っ張り出してくるようになって心底つまらない。愛だの恋だのと同じくらい薄っぺらい文章を私はあと何編紡いだら忘れられるだろう。


振られて2ヶ月、冷静になって考えた結果手元に残っているのは手に入らなかったものへの狂いそうなほどの憧憬と自分宛の小っ恥ずかしい記憶ばかりで、前向きな気持ちなどほとほとない。ヒートテックじゃ誤魔化しが効かなくなった寒い夜はついあなたを思い出してはSNSでそれっぽい言葉を並べて顔しか知らない誰かにだけあなたのかっこよかったところをひとつひとつ教えている。丁寧に丁寧に言葉を選んで、君の輪郭をもう一度描き直すように「好き」の2文字を何百回も違う形に変換している。そうして勝手に優越感に浸っては、でもあの子は私の知らない彼のかっこいいところをいっぱい見せてもらえてたのかな、なんて思ってしまって覗き見るしかなかった自分を恥じながらスマホよりも先に瞳を閉じる。君もいなけりゃ星も見えないひとりぼっちの落ちぶれた都で、ずっと閉じたままのカーテンのお星様に気弱な呪いばかりをかけて夜をやり過ごすのはこれで何度目だろう。60日って意外とすぐに終わっちゃうんだね。


もっと可愛くなったら私のことを好きになって、いや、好きにならなくても付き合ってくれるだろうか。アクセサリーみたいな女でもいいから、よくつけてた細い1本のネックレスを外して私を隣に置いてほしかった。本当は放課後に君の手首を握った日から脈なんて見つけられなかった。騙し騙しここまで来たけど、私が綺麗になれば彼女になれるなんてことはもうないととっくにわかっていて、悔しくて馬鹿みたいに食べ物を口に詰め込んでは、我に返って脱毛のカウンセリングに行ったりする。でも君が選ぶ女の子は君のためのおしゃれをめんどくさがったりするんだろうな。でも君も1本のムダ毛も2ミリのアイラインもきっと見逃してしまうだろうから、ある意味お似合いなのかもしれない。


会いたいけど、たぶんもうきっと会わない。会えるかも、と淡い期待を捨てきれずにたまにこうして文章を書いたりしながら生きていくくらいがちょうどいい。私が何かを成し遂げたら会いたいなと思う。可愛くなるとか、TOEICで700点越えるとか、彼氏ができるとか、君を忘れるとか。うまく愛することができなかった私の、不器用という言葉で終わらせるにはあまりにも汚い恋はずるずると引きずられ、ゴミ袋から染み出した汁を綺麗に拭き取るまで続くでしょう。早く君がとびきり素敵な新しい女を選んで私の前に突き出してくれればいいのに。


どうしようもない沈黙になんとか耐えようと提案するしりとりみたいに、恋も無理して続けたかった。愛だの恋だのそんな言葉しかもう残っていない私は、好きを二度言って負けたい。