走馬灯予行演習

誰にも言えない君のそんなところが好きだったよ

第一首

 

 

 

 

赤シート 隠さないでよ 赤い糸 もう覚えたよ 君の優しさ

 

 

 

 

数学を理由に避けられた、

と思いたいだけかもしれない。なんであの女を選んだのかの合理的な理由が欲しくて数3のせいにした。微分の仕方から怪しくなってきた私に数学を語る資格はあるのだろうか。

 

あの女、立脇は冴えない。全然可愛くない。何でこいつがモテるのかって女はいっぱいいたけどこの女はその頂点。なんでこいつが、と卒業アルバムを睨みつけながら思った。

 

私があのとき理系に進んでいたらと思うとどうしようもなく悔しかった。悔しかったから勉強した。彼はきっと国公立大学だろうけど、彼の滑り止めよりはいいところに行こうと思った。彼が西日本で1番賢い大学を選ぶ背中を押してくれた。

 

彼とは運命だと思った。好きになった人全員に言ってるけど彼だって、あいつだって、その時の私にとっては運命だったから別にいい。私と彼の小指とを繋ぐ赤い糸はターゲットに付属の赤シートが隠しているに違いなかった。春も夏も秋も終わって冬、また春を目前とした今、ターゲットは全然開かなくなったのに赤い糸は見えない。目を離してる隙に糸は消えてしまったのかもしれない。

 

学歴なんていらないから彼女になりたかった。でも彼はいつか死ぬから、死んでも私が生きるために大学に行く。本当に知りたかったのは彼が私のことを好きだと言ってくれる日々の喜びで、pessimisticは綴れなくて構わなかった。

 

プライドなんてぶん投げて馬鹿にもなれるくらい好きだった。でも馬鹿なふりができないくらいには本当馬鹿だったので諦められていない。賢く生きてみたかった。要領なんて少しも良くない。スカした顔で話しかけてても内心はいつもビクビクしていた。幸福感なんて振り返らないと得られない。それでも幸せだと思えるならそれで良くて、私が愛していたのはいつだって彼の残像だったのかもしれないと今になって思う。

 

優柔不断を耳障りよくすると「優しい」になる。優しい男が好きだと言っていたけど、今度からはその前に「私のことが好きだとはっきり言ってくれて」あたりの文言を付け足そう。それでも彼は優しかったしその優しさにずっと救われている。立脇にもその優しさが伝わっていたのなら、私が立脇に呪詛を唱えた分だけ彼に優しくされそうで腹が立つからもう関わらないでおこうと思う。でもそんな調子だったくせに私は次も同じくらい、もしくはそれ以上の優しさを求めてしまうんだろう。人は一度上げたグレードをそう簡単には下げられない。次の恋が怖いからもう彼で終わりにしたい。知ってしまったのに知らん顔はできない。

 

 

 

 

 

 

数学はあまりできないけど、私の方がずっとずっと彼のこと好きだし、私の方がずっとずっと可愛いし、私の方がずっとずっと彼のこと幸せにできるし、私の方がずっとずっと面白いこと言えるし、私の方がずっとずっと可愛いもん「そういうところだよ」